音に関連した多様な分野で活躍される方々をお招きし、弊社チーフサイエンティストの濱﨑が、「音」についての様々なテーマについてお話を伺う企画です。
第1回目は、現在finalが共同研究を行なっている、九州大学大学院芸術工学研究院の河原一彦博士にお話を伺いました。お話しいただいたそのままを文章にしましたので、読みにくいところがあるかとは思いますが、これによって、文章から話し手の言葉そのものを感じ取っていただけることと思います。
4時間ほど伺ったお話を、主たる項目に分けてお伝えします。パート7(ラスト)は『今後目指すもの』です。
九州大学大学院芸術工学研究院 河原一彦博士
・今後目指すもの
・今後目指すもの
濱﨑:かれこれ大分時間も経ってきましたけど、今後、河原先生が思い描かれている教育だったり、研究だったり、何か今後、ぜひこういうことを実現してみたいとか、あるいは、この辺りはまだこれまで経験がないので、着手してみたいとかっていうものは何かございますか?
河原:場当たり的な課題をこなしていたんですけど、年に何回か、結局その目標は何のためにやっているんだろうと思う機会を作るようにしていて。僕は、多分こういうことがやりたいんだなって手短に書くとすると、公共空間に関連した音響機器みたいなこと、そこで、ハッピーなことができる。ハッピーというのは、おそらく何かすごい大規模な演算とかが行われているにしても、そこにいる人にとっては、快適であるようなことが当たり前のように技術が意識されずに行われているっていうことだと思うんですけど。Hi-Fiオーディオ、趣味としてのオーディオだと、リスニングポイントっていうのがあるわけですけど。僕は、音の場のデザインを、スピーカーを使ってやりたいなと思っていて、それは、複数スピーカーがあってもいいんですけど。音の場をデザインすると、特に公共空間で。だから、もしかしたらサウンド・インスタレーションみたいなものと近いのかもしれない。ブライアン・イーノとかが90年代とかにやっていたようなこと。たまたま僕もそういうのを聴く機会があったので、印象に残っているのかもしれないなと思うんですけど。公共空間ですね。商業空間とか、一緒にご飯を食べる空間とか、駅とか空港だとか、そういう所の音の価値を高めたいと思うわけです。特にレストランとかだと、食べるご飯だけじゃなくて、会食していると、上手く会話しにくいですけど、会話の内容と、その会話がよそに聞こえないとか、よその音が自分たちの会話を邪魔しないっていうことと合わせて、空間に対してお金を払っているようなことになりたいということです。お金を払って、この店でこの食事をします、ここで何かをします、その場所代としては、この場所は話がしやすいから、会話しやすいから、もしくは、音の意味でも気持ちが良いからっていうような所に、信号処理とか音響機器っていう専門の立場から、何か提案できたら良いなと思っているんですね。そのためには、きっとその空間を音響的に心地良いって思ってくれる人を増やさないといけないので、やっぱり教育の話に戻ってくるんですよね。僕は、目指す所って、こういう所なんだろうなって思って。自分が興味のある所を抽出していくと、こういうことになるのかなと思っています。
濱﨑:ありがとうございます。最後というわけでもないですけど、何か本当はこんなことを言っておきたかったのに聞かれなかったとか。あるいは、私たちもfinalという会社で、何度も色々とお話をさせていただいていますから、私たちがやっていることの一端みたいなことは、ご理解いただいていると思いますし。商品のことも。finalに、これだけは言っておきたいとかみたいなことがあれば、ぜひ。
河原:そういう意味じゃ、このインタビューの中でもキーワードみたいになったと思うんですけど。商品、オーディオに関するような商品を買う人も、自分を鍛えないといけない。鍛えたら良いことがあるよっていうふうにしたいなと思いました、この準備をしながら。そうすると、例えばfinalの場合だと、自分に合ったイヤホンが得られ、選ぶ能力というか、例えば僕が言いたかったのは、車を買う時に、めちゃくちゃ調べるでしょ?そんな車を買う時みたいに調べないけど、イヤホンを買う時に、このハンドブックを見とったら、選ぶコツが分かるっていう、1個選ぶ時に、拠り所になるように、例えば僕らにとっては当たり前ですけど、自分の好きな音楽を聴いて選んだらいいよとか。それだけでもいいと思うんですよね。例えば誰の音楽が好きというのがあれば、その曲がかっこよく聴こえるイヤホンを選んだら、それでいいわけじゃないですか。だから自分の好きな曲が、あまりラウドネス競争していると困るんですけど、自分の好きな音楽が、自分にとって気持ち良く聴けるようなイヤホンだったら、値段が高い安いじゃなくて選んでいいんじゃないですか?選んでいいんだよ。思い出した。いつも言ってること。おそらく、今までの民生オーディオは、良い悪いの対立だったと思うんですね。良いのはどれ?みたいな。おそらく、パラダイムシフトが起こらないといけないと思っていて。多分、好きかそうじゃないかとか、もしくは、適しているか適していないかっていう、そういう軸に変わるんじゃないか。それは、ある程度良い悪いっていう意味でのHi-Fiのソリューション、解にほぼ近づいてしまったから、それからどっちかというか、どういう音楽をどう聴かせるかという味付けの方に、味付けというか、調整の方に。味付けというのは、適切じゃない。Hi-Fiでは、ほぼチューニングとして達成できるとしたら、じゃどの音楽を聴かせますか?どういうジャンルの音楽に合わせますか?っていう時代になるんじゃないかと思っているんですよ。そういう時に、じゃあそういう売り方、あるいは、選び手もどういう音楽、好きな音楽、いつも聴いている音楽は、これ。じゃあ、それを聴いてみて、AとBとCと聴いて、じゃあ1番これが素敵に聴こえる。その時に、いっぺんボリュームを下げて、あらためて上げましょうっていうのもあるけど、そういう聴き方をして選んでもらえるような、そういうテクニックというか、リテラシーをちゃんと伝えないといけないなと思います。いけないな、無責任な発言だな、これは。主語がないからいけない。業界関係者ときちんと連携して、教育機関も、そういう発信をしていかないといけないなと思っています。どうでしょう。
濱﨑:ありがとうございます。私自身は、音楽コンテンツを作る側の仕事もやってきましたから、元々は、ある時代までは自分が作った音をそのまま聴いて欲しいという意図が強かったですね。ですから、フィデリティという、忠実性というのを再生側にも求めてきていたんですけど。今は、先ほどのスマートフォンやら、一体どういう環境で聴かれるか分からない。そこに信号処理で、いわゆるレンダリングという技術ができてきて、かつ、3Dオーディオというのも、非常に一般的になりつつある。そうすると、私はこう作ったので、こう聴いてくださいではなくて、こういう形の素材を用意しましたから、あとはお好きに聴いてくださいみたいな形が多分求められてきているんですね。そうしないと、コンテンツもきちっと渡していけないみたいな。それは、MPEG-Hだとか、ああいう符号化がそれこそ、そういうことも想定して、音をどういうふうに伝えるかっていう符号化の考え方も変わってきている。そういう意味では、ユーザーというか、リスナーが主体的に音楽をどういうふうに聴くかっていうことを、主体的に自分で選ぶ。じゃあ、どういうデバイスで選ぶ、あるいは、どういう音で選ぶ、どういう音で聴くというのを多分選べる時代になってきた。でも、そのためにはある程度知らないと選べない。だからそこは、多少なりおっしゃったように、ガイドブックなのか、勉強するのか、調べれば、今の時代ですから、色々な情報があって。今回のこういったインタビューも、おそらく普段それこそ河原先生の授業でも取らない限りは、こうやって話を聞くなんてことはできないというのも、finalというひとつの会社がお願いして、お話を聞かせていただいている。このコンテンツ自体も、そういう意味ではユーザーの人たちが自分たちで考えて、何か音を判断して、自分たちの好きな音楽を好きに聴くというための材料になると思うんですね。だから、そこが多分おっしゃったように、リテラシーなのかなとは思いました。
河原:濱﨑さんのお話、すごくよく分かる。ヘッドホンを選ぶって、レンダリングツールを選んでいるんですね。スピーカーで聴くか、イヤホンで聴くかという所がすでにそう、レンダリングとのつながりで選んでいるっていうような捉え方をすれば、レンダリングする能力というか、リテラシーを身に付けていると、例えば日曜日の朝のご飯を食べながらのレンダリングと、通勤電車の中でのレンダリングの仕方は違うわけですよね。だから、そういうキーワードで意識することができれば、もっとハッピーなリスニング体験ができるんじゃないかなと思いました。産学連携というか、上手く色々な所で連携しながら、儲かるという意味じゃなくて、中のハピネスを増大できるような、それだけ平和な時代なので、せっかくの平和な時代に我が国にいることを楽しめるハピネスを楽しんだらいいんじゃないかなと思います。音楽の力の文化を、リテラシーを高めていくことが、我が国の音楽の文化の聴き方というか、音楽の聴き方を高めていければ、豊かになるんじゃないですか。西洋ヨーロッパの諸国のコンサートのあり方がすべてじゃないかもしれないので、ヘッドホン・イヤホン、ウォークマンを生み出した国なので、そういう音楽の聴き方が日本で色々な聴かれ方が発展していくという1つの聴取スタイルを作っていければいいかなと、お話ししていて思いました。
濱﨑:話も尽きませんけれども。多分いずれパート2があると思いますから、引き続きまた何かの機会でお話を伺いたいと思います。かれこれ、4時間ですね。長時間、ありがとうございました。本当に楽しい時間でした。