音響専門書籍・文献紹介では、弊社R&D担当者それぞれが日頃参考にしている書籍や、注目している論文などをご紹介します。
紹介した書籍や文献へのリンクも掲載していますので、興味を持たれたらご利用ください。
Francis Rumsey著
『Audio Processing – Learning from experience』
(邦訳「オーディオ信号処理 – 経験からの学習」)
Journal of AES, FEATURE ARTICLE
Volume 69, Number 5, May 2021
Page.361-365
https://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=21041
キーワード:オーディオ信号処理、機械学習、オーディオ技術
『Audio Processing – Learning from experience』
(邦訳「オーディオ信号処理 – 経験からの学習」)
Journal of AES, FEATURE ARTICLE
Volume 69, Number 5, May 2021
Page.361-365
https://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=21041
キーワード:オーディオ信号処理、機械学習、オーディオ技術
「オーディオ信号処理の未来にワクワクする!」
それが、この文献を読んだ時の私の思いです。
今回は、米国ニューヨークに本部があり、世界中のオーディオ・音響技術に関する専門家、研究者、大学教官から学生まで約2万人の会員を有し、日本にも支部がある、オーディオ技術に関する唯一の国際協会であるAES(Audio Engineering Society)が発刊しているジャーナルJournal of Audio Engineering Society(JAES)からfeature articlesというレビュー記事をひとつご紹介します。
この記事を担当するのは、もと英国Surrey大学の教授であり、現在JAESのConsultant Technical Writerを務めるFrancis Rumsey氏。 彼が著述するレビュー記事は、あるテーマを取り上げて、それに関連した最新のAES寄稿論文を紹介したもので、テーマの分野におけるトレンドや将来展望が上手くまとまっており、オーディオ技術の研究開発をしていくうえで大いに参考になります。
今回取り上げた記事は、タイトルに「Audio Processing」とある通り、オーディオ信号処理にフォーカスしています。イヤホンおよびヘッドホンでは、イコライザやアクティブノイズキャンセリングなどのオーディオ信号処理が使われており、皆さんも馴染みがあるのではないでしょうか。近年ではオーディオ信号に含まれる様々な特徴を学習し、ゲインや遅延量やフィルタ設定値などが含まれたパラメータテーブルを自動で切り替えていく技術などが研究開発されています。例えば、マルチチャンネルのオーディオ信号の音量をリアルタイムで解析し、セリフが重要なシーンや迫力重視のシーンなど、それぞれのシーンに合った効果になるように自動的にパラメータテーブルを切り替えてホームシアターの没入感を向上させることが出来ます。効果を最大限に発揮するために、オーディオ信号を解析する技術はますます重要になっています。本記事では、オーディオ信号を解析する技術について、いくつかの論文が紹介されており、オーディオ信号処理の可能性を考える上で必読です。
ところでみなさん、ライブ録音とスタジオ録音の音源を聞き分けることが出来ますか? おそらく、多くの方が聞いて区別できると思います。 じゃあなにを頼りに聞き分けていますか?という質問に対しては、「声の残響の感じから」や「なんとなく響きの感じから」という答えが多いのではないでしょうか。この判別を機械に学習させることで、ライブ録音とスタジオ録音を区別することができます。
なにを頼りに区別するのか。 言い換えると、人はどんな特徴を掴んでなにを判別しているのか。 さらに、その判別結果を用いて、より効果的に信号処理を行うためにどうすれば良いのだろうか。また、その根本として、どういう状態が理想なのだろうか、を考え、目的設定することが重要です。
私は、こうした人の判別基準を機械に学習させる仕組みが面白いと感じています。
私自身、映画のシーンをマルチチャンネルのオーディオ信号から解析し、そのシーンに合った音場効果を自動生成することで映画全体の迫力を向上させ、ホームシアターにおける没入感を高めることに成功した経験があり、機械学習とオーディオ信号処理の組み合わせの可能性を大いに実感しています。
イヤホンおよびヘッドホンをさらに魅力的にするためのオーディオ信号処理について、現状と今後の展望を知ることができる本記事は大変有用なのではないかと思います。
ゆずからす