R&Dコラム vol.1 <br>「8K SOUND」

R&Dコラム vol.1
「8K SOUND」



final独自の研究開発や、finalの新しい製品等に関する情報を、技術的な視点でコラム的に随時ご紹介します。



8K SOUND

ZE8000の音を「8K SOUND」と銘打った理由について、ご紹介します。

ヘッドホンやイヤホンの音設計については、ターゲットカーブという観点で行われることが多く、finalでもターゲットカーブの研究も行ってきました。ターゲットカーブとは何かについて説明をすると長くなりすぎますので、ここでは割愛しますが、ハーマン・ターゲットカーブなどがその一例です。

ヘッドホンやイヤホンの音の設計については、チューニングと呼ばれる、製品をある目的の音にフォーカスさせるための振幅周波数特性調整が行われることも少なくありません。
finalでは、ターゲットカーブや、チューニングの研究をしながらも、フラグシップヘッドホンD8000の開発を始めた2014年頃から、従来から定説とされてきたターゲットカーブの概念や、チューニングに基づくヘッドホンやイヤホンの設計法に対し、その考え方や、その音にいくばくかの違和感を持ってきました。

その違和感を発端として、まったく新たな視点で研究開発を行い生み出したのが、E500、VR3000、A8000などの製品です。しかしながら、この時点での研究開発でも、2014年当時から持っていた違和感について、納得できる解決を得ることはできませんでした。
そこで改めて、人が音を聴くことはどういうことか、あるいは、音楽を聴くとはどういうことかという基本に立ち返り研究開発を始めました。

さらに、ヘッドホンやイヤホンの設計に投入されてきたこれまでの技術や既知の課題についても改めて検証しました。スピーカーの音印象にヘッドホンの音を近似させるために採用される頭外定位技術、イヤホンやヘッドホンにおけるターゲットカーブ、同じ製品の音に対して好ましいと思う人とそうではない人がいる事実などです。

これらの研究の過程で、イヤホンやヘッドホンでの聴取を長く経験されてきた方と、それほどではない方の音の聞き方に差異があることも分かってきました。前者は、これまで通説とされてきた設計手法に基づいた音に慣れ親しんだ方と言えるかもしれません。

そこで、イヤホンやヘッドホンありきの設計法ではなく、人が自然に音や音楽を聴くために必要な条件を探ることにしました。その成果をもとに開発したのがZE8000です。この研究成果については、いずれ論文等で発表することを予定しており、詳細はまだ申し上げられませんが、その音はZE8000で体験していただけます。

ZE8000は、私たちにとっても、これまでの製品と一線を画する音となりました。ひとことで表せば、どこにも強調を感じることなく、ヘッドホンやイヤホンを介さずに私たちが普段聞いている「自然な」音に近似した音だといえると思います。生楽器のアンサンブルによる演奏を聴いた時に、時間とともにだんだんと各楽器の音にフォーカスできていく体験に近いといえるかもしれません。あるいは、とてもよく調整されたハイエンドオーディオ・スピーカーで聴いた時の音だともいえると思います。一方で、強調されたところがないために、音の印象を言葉で表すことが難しく、いわば驚きのない音だともいえると思います。

開発した私たちも、この新しい音に初めて触れたときの不思議な感覚を覚えています。この音に慣れ親しむと、従来の製品の音には戻れなくなるという印象も持っています。強調されたところがなく、じっくり聴くとだんだんと聴きたい音に精緻にフォーカスできるという不思議な体験をどう表現するべきか悩んだあげく、8Kディスプレイを見た時にあまりの情報量に戸惑った印象に近いと思い、8K SOUNDと命名することにしました。得られた研究成果については、今後、学会等で発表していく予定です。


パウケン
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